あの日ぼくらが信じた物
 時計を見やるとまだ7時前だった。あの尾長鶏がちゃんと朝に鳴くなんて、珍しい事も有るものだ。

階下では何やらガタゴトと喧しい。出発の準備でもしてるんだろうが、ぼくには関係ない。もうひと眠りしようとタオルケットをかぶり直した時に母が叫んだ。


「あきらぁあっ! 朝御飯よぉおっ! 降りてらっしゃぁい!」


「自分達の時間に合わせて子供を叩き起こすなんて、どういう了見だ」


 と悪態をついたけど、鼻をくすぐる味噌汁の良い香りに、ぼくの胃袋は完全に覚醒してしまっていた。


「あぁぁぁい」


 あくまで気の無い、だるそうな返事をして階段を降りる。


「おはよう、あきら。ほら、父ちゃんホラ」


 母が肘で父のことを小突いている。父はわざとらしく後ろ手に隠し持っていた袋をぼくに差し出した。


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