あの日ぼくらが信じた物
「いつも苦労ばかり掛けている、そんなあきらです。クーラーボックス持ってこいって父ちゃんが」


 しかし子供だって親の気持ちを知らない訳じゃない。そういった意味合いも込めてぼくは毒づいていた。


「あらやだあきら。盗み聞きは趣味悪いわよ? じゃ、こっちに移し代えて……と。ほら、これ持ってって」


 そういう母の後ろでみっちゃんママは穏やかに笑っていたけど、みっちゃんはどんな苦労を掛けているんだろう。もう少し顔を出さずに話を聞いとくべきだったかな。



結局───────



 あの後、とてもふた家族だけでは捌サバき切れない程の釣果を上げ、クーラーボックスに入り切らない分は塩焼きにして、ぼくらは帰途に付いた。

その日の内にご近所にお裾分けをして回り、お返しに頂いた煮物やおひたしを加えて食べた夕食は、なんだか嬉しいような切ないような……。


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