あの日ぼくらが信じた物
  ピンッ コツッ


 もうすぐ電池が切れそうなウチの玄関チャイムは、『ポン』の音が出ない。


「そろそろ電池を換えなきゃ駄目かしらね。ハァーァイ、今行きまぁす」


 『よそ行き声』になって玄関に駆けて行く母。

ぼくが2年生の時にも廊下を走り、ブレーキを掛け誤ってそのままスライディングでドアを蹴破り、お客様をお迎えしたという母。

廊下を走る事は父から固く禁じられている筈なのに、全く懲りていない母だ。


「……まぁ、そうなんですか? まぁまぁ、ははっ。ユニークなお嬢さんですコト」


 どうやらブレーキングは上手くいったようで、つつがなく来客と歓談中の母。

彼女のことは好きなのだが、この『よそ行き声』はどうもいただけない。首のスジ張った所が無性にかゆくなってしまう。

どんなお客が来たのだろうと柱の陰から覗いてみると、玄関には見慣れない母娘が立っていた。


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