SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
一樹はぐっと顔を近づけると軽々とあたしを抱き上げた。
そのまま素早く車に乗り込む。
「……いつ、き……」
喋ろうとしたあたしの口に、一樹が“シイ” と人差し指をあてる。
黒木がルームミラーであたしを気にしながらゆっくりと車を走らせた。
車の後部座席、
あたしは抱き抱えられた状態で、一樹に身をあずけている。
一樹は冷えたあたしをあたためるように、ギュッと体を密着させた。
〈 “ 心配したんですよ? 満月の夜に行方不明だなんて……”〉
頭に一樹の声が響く。
〈 “ ごめん、一樹 ” 〉
心の中であたしは答える。
〈 “ 一体、何があったんです ” 〉
〈 “それが、あたしにも、よく分からない ” 〉
一樹がじっとあたしを見つめる。
そしてあたしの前髪をそっと指でかきわけた。
〈 “ 事情はあとで。今は治療が先ですね ” 〉
一樹はユリのように心の傷を癒す精神治療も行えた。
〈 “ ひどい状態だ……すぐに楽になりますからね ” 〉
あたしを回復させようと、そっと額に手が置かれる。
でも、 あたしは——
〈 “ 一樹、なにもしないで ” 〉
それを、拒否した。