SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


それから、お昼を食べて、午後の授業を受けて、あっという間に放課後になった。


「 じゃあ、美空、また明日ね~!」


教室で真希と奈津と別れる。

真希はブラスバンド、奈津はソフトボールの部活だそうだ。


「…………」


一人になったあたしは、まだ人がまばらに残る教室の景色をぼんやり眺めていた。


……学校、か……


小学校も、高校も、授業内容は別として、


教室の雰囲気というか、


物音や、声や、温度や、におい……


いろいろ、思い出した……


なんか、一緒……だったな。


忘れていたものが、何ごともなかったように、すっと胸に収まった感じだ。

もう少しこの景色を眺めていたいけど……


「……え、」


気付くと、あたしの周りにはたくさんの男子生徒……


「 あっ、あの、しゅっ趣味はなんですか?」

「 授業分かった? 分からない所があったら教えてあげるよ?」

「家はどのへん? 送って行こうか?」


……なんか、みんな顔が必死だ。


「……あ〜、」


あたしは困って首を傾ける。

すると、


「 天使! これ残りの教科書だってよ!」


人だかりをかき分け、透が教科書の束をドンッとあたしの机に置いた。
< 137 / 795 >

この作品をシェア

pagetop