SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
●━━━━━【 事件簿 】━━━━━━● 
      
      
向かい合うように家々が立ち並ぶ、ひっそりとした住宅地。

人通りのないその場所を、黒いジャージを着た男が、何かを物色するように歩いている。

やがて男は一軒の家の前で足を止めた。

石垣から庭木がはみ出る日本風家屋。

男は周りに人がいないのを確認すると、器用に石垣を飛び越えた。


うっそうと生い茂る庭木が男の姿を見事に隠す。

男は若干安堵した様子でひと気のない家屋に近づいた。

ポケットから小さなガスバーナーを取り出し、ガラスを炙る。霧吹きで水をかけると、きれいにガラスに穴が開いた。


男の空き巣の手口は百戦錬磨だ。
今日も完璧に仕事を終えられる、そんな自信が彼にはあった。


穴の開いた窓に手を突っ込み鍵を回し開ける。

カラッと窓を開けると一歩家に踏み込んだ。


「……?」


そこでやっと異変に気付く。

背中に感じる何かの気配……

男はバッとうしろを振り向いた。


「…………」


……誰もいない。


「 気のせいか 」


男は胸をなで下ろし再び足を踏み入れる。


「…………」


やはり男は動きを止めた。

やはり感じる。

感じるのだ。

何かの……気配を…………


ジメッとした重苦しい空気

生暖かい風が頬をなでる……


——ゴクッ


生唾を飲み込みながら、男はゆっくり視線をずらす……



ずらす………………ずらす………………

……………ずらす……………ずらす……



————「 ワッッ!! 」 ドスッ!!



耳もとでの大声、

瞬間、腹に飛んできた重い拳、

男は声を上げる間もなく気絶した。


「……ふぅ、」


美空はロープを使い、木に男を縛りつけた。


"ぼくはドロボーです"


そんな紙を男に貼り付け、美空はさっさとその場をあとにした。


●━━━━━━━━━━━━━━━━●
< 140 / 795 >

この作品をシェア

pagetop