SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
◇日常
"ザアアア……"
あれから本格的な雨の日が続いていた。
こもった雨音を聞きながら、あたしは黒板に書かれた数字の羅列を眺めていた。
……数学か。
あれだな。 なんにも、わからない。
小学校では算数で、九九まではやったけど
はっきりいって、ほとんどの授業内容があたしには分からなかった。
……別にいい。
日常生活に困らない程度のたし算、ひき算ぐらいはできるし……たぶん。
一ノ瀬も、勉強はどうでもいいと言ってた気がするし。
ただ、ノートだけはちゃんととる。というか、字の練習をしてるだけ。
「…………」
チラッとななめ右の方を見てみる。
透は、たまに頬杖をつきながらも、ちゃんと授業を聞いていた。
透、真面目だな……
あれから透は何も言ってこなかった。
特に話しかけてくるわけでも、あたしから話すわけでもなく
時々、目が合ったりしても、透はすぐに視線をそらした。
……まあ、いい。
別に話す事もないし。
頼るなって、言ってたし。
「…………」
窓の外をぼんやり眺める。
"また見に来れば?"
あの時の少年の言葉がふわふわと頭に浮かんでいた。
何故か度々、あの少年が思い出される。
よく分からないけど、気になって……
言われた通り、実はあの後、もう一度ハンカチの木を見に行った。
さすがにその時は、勝手に屋敷の中には入らず、遠くからその木を眺めたけど……
"カリカリカリカリ……"
隣の席から勢いよくシャーペンを走らせる音がする。
色白のぽっちゃり男子は机にかじりつくように、必死にノートをとっていた。
……そんなに好きなのか、勉強。
じーっと見てると目が合った。
……?
ぽっちゃり男子は何故か真っ赤になってうつむいた。