SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


それから、あっという間に放課後になった。

あたしは下駄箱の所で少し足を止めていた。

傘立てにあたしの傘が、ない。


……なんで?

ぼーっとしてると、バックが微かに振動した。


「……あ、」


思い出して、バックの中をゴソゴソあさる。


……あった。

赤色の電話のやつが小刻みにブルブル震えていた。

慣れない手つきで電話に出る。


『 ミクう~? 終わったかあ~⁉︎』


「……黒木。うん、今帰るとこ 」


『 オ~ウ♪ それはちょうどヨカッタ~。イヤ~今、偶然学校通りかかってヨオ~、ついでだから一緒に帰ろうぜえ~!』


「……うん 」


初めて学校へ行ったあの日、家に帰ってから、実はいろいろ大変だった。

帰りが遅いだの、連絡がつかないだの、とにかく黒木が心配してて……

そこではじめてバッグにコレが入っているのに気がついた。


……だってこんなの、使ったことないし。


なんか、バッグが震えてた様な気はしたけど。


それから黒木は時間のある時には学校へ迎えに来るようになった。

大丈夫と言ったのに何かと理由をつけてはやって来る。


……あれだな、

黒木はとても心配性だ。


——ザアアア……


外は濡れたコンクリートのにおいがしていた。

雨はさらに強くなり、たった2、3歩あるいただけで、あたしは全身ずぶ濡れになった。

校門を出て、急いで黒木の車に乗り込む。

すると、


「 ぎゃあ~! ずぶ濡れじゃないかあ〜!!」


黒木が驚いたように声を上げた。
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