SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「 18時50分か……」


晩ごはん、食べに行こうかな。

あたしはダボッとした黒のロングパーカーを着て、エレベーターで一階に下りる。

一階は、すべて飲食店やBarなどのお店になっているから、毎日の食事には全然困る事はなかった。


"彩"と書かれた創作料理レストラン。

あたしは大抵ここで食べる。


店に入ると、店内はお客さんでいっぱいだった。

一番奥の、くぼんだ空間に移動する。 暖色系の明かりが灯るそこは、テーブル席が2席ある。

こげ茶色の木のイスとテーブル。ワインレッドのテーブルクロス。 他の席とは違う、落ち着いた雰囲気がそこにはあった。


2席のうち、小さい方の席につく。

ここが、あたしのいつもの指定席だ。

不思議な事に、どんなにお店が混んでいても、この2席だけは誰も人が寄り付かない。


"本日のおすすめプレート"を注文して少し待つ。

すると、にぎやかだった店内が急にシンと静かになった。


……あ、来た。


足音とともに、3人のおじさんたちが、肩を揺らしながら、くぼんだ空間に入って来る。


「「「…………」」」


あたしの存在に気付くと、ほんの少しだけ動きを止めた。


「 こんばんは 」


あたしが言うと、


「……おお、」


真ん中の四角顔のおじさんが、抑揚のない声で返事をして、あたしの隣の席に着く。

これがいつもの光景だ。

隣の席は、このおじさんたちの指定席になっていた。

真ん中の、目つきの悪い四角顔のおじさんと、両隣にはこれまた目つきの悪い尖がった感じのおじさん。
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