SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
"ダンッダンッダンッ!"
動かずにはいられない。
止まれば力に押しつぶされてしまいそうだ。
「……ハアッ、ハアッ、」
こんな状況でも、今日はプラスで良かったと思う。
キツイけど、自分を見失ったりしないから。
"ダダダダダッ……!!"
壁の端まで全速力で走る。
そのまま、壁にはりついている無数の石に手をかけて、高い天井までを一気に登る。
"タンッタンッ、トン……パシッ!"
今度は天井から釣り下がる輪っかを伝い、50メートルはある部屋の端まで一気に戻る。
「……ハアッ! ハアッ!」
またサンドバッグをメチャクチャに打ち込み、自転車みたいなやつにまたがり思いっきりペダルをこぐ。
これを数時間、何度も何度も繰り返し……
天井の輪っかをつかんだ所で
——ボテッ、
“スッ”と反応は治まった。
力が抜け、マットの上に寝転がる。
「……はあ、はああ〜、 」
満月による異変は、プラスの時は三時間程度で治まっていた。
……ふう、
今月も乗り切った……
安心感と疲労感が一気に襲う。
「…………」
ほら、あたしは一人で大丈夫。
さっき会議室のモニターに映った、一樹、黒木、ユリの心配そうな顔がちらつく。
みんな、心配しすぎなんだ……
あたしはそのまま眠りに落ちた……