SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

……?


「 どういうこと?」


「 だから、オレが好きで勝手に送り迎えしてるだけだ! ……でも別に、おまえがやめろって言うなら、もうやめるけど?」


「…………」


あたしは少しうつむいた。

二人の間に流れる沈黙……

そして、


——ズベッ!


つまずいたふりをして、あたしは真横にぶっ飛んだ。


「 うわっ!!」


走って来た中年男に体当たりする。


"ガシャーンッ!"


男は脇にとめてあった自転車をなぎ倒し、派手な音を立てて転倒した。


「 おいっ! 何やってんだよっ!」


透が血相を変えて近づく。すると、


「 捕まえたぞ! この泥棒めっ!」


警備員みたいな人が二人、転倒した中年男を取り押さえ、すぐさま男を連れてった。

そこで右手のしるしがさっと消える……


「……なんだ、今の?」


「……さあ?」


「 つーかおまえ大丈夫かよ!」


ハッとして、透はまだ地面に座りこんだままのあたしを立たせてくれた。


「 捻挫とかしてねえ⁉︎」


「 大丈夫 」


「 はあ~、びっくりさせんなよ 」


透は大きく息を吐く。


「 つまずいて横に吹っ飛ぶ奴がいるかよ! おまえどんだけなんだよ!」


呆れたようにあたしに言った。


「 なにが?」


「 なにが? じゃねーよ!」


透があたしに顔を寄せる。


「 改めてよーく分かった。親父や、一樹さんや黒木さんユリさん、何でみんながあんなにおまえを心配するのか…… 」


「……?」


「前言撤回! おまえがヤダって言ってもオレは送り迎えやめねーから!」


また怒ったような透の顔……


「 ほら、行くぞ!」


さっとあたしの手を引いて、


「……ったく、危なっかしいんだよ!」


透は再び歩き出す……


「……?」


なんなの?

あたしはただ、繋がれたその手を見つめていた。
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