SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
——ガチャ
玉ちゃんたちと別れて部屋に戻る。
相変わらず部屋はガランとしていた。
黒木とユリは、6月の末に一度ここへ戻ってきた。
だけどその二日後、また一ノ瀬に呼び出され、D.S.Pに行ったきりだ。
D.S.Pも今、なにかと大変らしい。
この間のボディ変化兄弟も、結局、まだ片付いていないみたいだし、事件も急に増えてきて、みんな相当参ってるっぽい。
何か力になれたらいいのに……
あたしは右手を広げてみる。
当然のように、手の平にはなんにも浮かんでいない。
「……はあ、」
共有リビングを抜けて自分の部屋まで歩く。
——シン、
無駄に広いこのマンション。
7月の蒸し暑い季節なのに、ここはひんやりと、温度管理はバッチリだ。
……ひんやり?
最近は、なにか心がヒュウ〜っとする。
1LDKの自分の部屋へ入る。
13畳のリビング、6畳の寝室、玄関、トイレ、バスルーム、小さなキッチンまで付いてこれがあたしの部屋なのだ。
「……広すぎるよ 」
あたしはドカッと床に座り込む。
すると、また電話の音が鳴る。
「……?」
……着信?
しかも画面には"透"の文字。
画面をタッチして電話に出る。
「……もしもし?」
『おまえ! 戸締りちゃんとしろよっ!』
それだけ言って電話は切れた。
……? なに、今の。
あたしは首を傾けながら、画面をぼーっと見つめていた。