SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
◇一樹の怒り
"チチチ、チュンチュン……"
スズメたちが街路樹にとまり羽を休めている。
いつの間にか梅雨も明けて、日差しの強い本格的な夏の空が続いていた。
「……つーか、おまえ、けっこう勉強できたんだな 」
学校の帰り道、透が意外そうにあたしに言う。
期末テストが終わって数日、
この間のテストも返されて、今日、順位表みたいなのが廊下に貼り出されていた。
どうやら50位まで発表されるらしく、あたしは42位だった。
42位と聞くと微妙だけど、50位以内に入る事自体、すごい事だと真希と奈津は言っていた。
「 オレはてっきり頭の方も危ないのかと…… 」
さらっとそんな事を言う透は、学年2位の成績だった。
うだるような暑さに、すれ違う人みんなが顔を歪めてるのに透はキリッとした顔を崩さない。
"ブ〜"
バッグの中が振動して、あたしは紺色の大きなバッグをゴソゴソあさる。
「……つーか、前から思ってたけど、そのバッグでかすぎじゃねえ? 」
「 そう?」
透が横目で見つめる中、ようやくあたしは電話に出る。
「 もしも——『ミクう~っ!!』」
透にも聞こえるぐらいの大音量が響いた。
「……黒木 」
『 寂しかったろ~? 今帰ったからナァ~。まだ学校か? 迎えに…… 』
「 今、帰ってる。透と 」
『……とおる、と? 』
「……? 黒木? 」
『…………』
「 黒木? もしもし? 」
電話の向こうで、なんか黒木がうなってる。
すると「かせ」と、透があたしの手から電話を奪い、何やら黒木と話しだした。
……?
しばらくして通話の切れた電話があたしのところに戻ってくる。
「 はあ~、オレもこれからマンション行くことになったから 」
そう言って、何故か透はあたしと距離をとって歩き出す。
「……そう、」
透の影を踏みながら、あたしは後ろをついていった。