SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


クリーム色の横に長いマンション。

共有リビングルームにいつもの静けさはなく、久々に人の声やざわめく音が感じられた。


「 ただいま 」


あたしが言うと、すぐにこんもりとした頭が走ってくる。


「ミクう~っ! 会いたかったぞぉ~!」


黒木があたしの頭をなでまわす。
続いてユリ、一樹も顔をのぞかせた。


「 美空、一人で大丈夫だった?」
「 何も問題はありませんか?」

「 うん 」


取り囲まれてるうしろから、


「……ちは 」


透が気まずそうに入ってくる。


「あ゛~! 来たなトオル~! おまえにちょ~っとハナシがあるぞお~?」


黒木は透の肩に腕をまわして部屋の隅へ連れていく。


「んもお~! 誠さんっ! 透くんには私が頼んだって言ってるでしょ⁉︎ だってしょうがないじゃない! あの時、美空と連絡取れなかったしそれに——」


ユリが慌てて二人の後を追いかけた。


「ダア~ッ! ンナ事わかってるっつーの! わかってっけど、な~んかこの胸のあたりがモチャモチャするっつーかあ? なんだろな~この気持ち! トオル! お前にわかるか⁉︎ この気持ち!」


「……さあ 」


「さあって、おまえ、さては忘れてねーダロな? あの時オレに言ったコト 」


「……まあ、」


「だよなあ~? おまえは純日本人が好きなんだもんなぁ~? ミクにはこれっぽっちも興味ないもんなあ~?」


「……です、ね 」


……?

あたしは遠目に三人を見ている。


「……なんなの?」


隣の一樹はふっと笑ってあたしをソファに座らせた。


……? ……あれ、

久々に見る一樹はすごくやつれて見えた。


「 一樹、やせた?」


あたしは一樹の顔をのぞき込む。すると、


「 最近、立て込んでいたせいでしょう。たいしたことはありませんよ 」


一樹はすぐに笑ってみせた。
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