SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
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「……いつき……」


あたしはスヤスヤと眠り込んでいる一樹の隣に腰を下ろした。

薄暗いリビング。

あの後ユリは“寝るわ” と言って、床で寝ていた黒木をズルズル部屋に引きずっていった。


「…………」


……めずらしい。

あたしは一樹の顔をのぞき込む。

一樹は、普段からは想像も出来ないほど無防備な顔を見せていた。

ダランとのびた腕を取り、あたしのヒザに乗せてみる。


……これは……


手を重ねてみれば、さっきよりも鮮明にセンサーが一樹の異変を感知した。

どれほど我慢していたのだろう。

大丈夫とは言えない、とても深刻な状態……

肉体的な疲労とはまるで違う、精神的に苦痛を伴うかなりキツい疲れの蓄積……



"心配だわ。いつか一樹くんの精神が持たなくなって崩壊してしまったらって "


さっきのユリの言葉を思い出す。


……どうしよう。


あたしが感じ取った感覚だと、今が瀬戸際みたいに思えている。

本人でさえ気付いていないのか、気付かないふりをしているのか、あるいは誰にも分からせまいとしてるのか、そこは知らない。

だけど、これをあともう少し続ければ、小さな崩壊が始まってもおかしくはない所にまでいっているのだ。


どうすればいい、このままじゃ……


あたしは一樹の手をにぎりしめる。


『はじめまして。あなたはやっぱり、素敵な女の子ですね 』


初めて会った時、そう言って一樹はあたしの頭をなでた。

笑顔を向ける一樹に、あたしは戸惑ったのを覚えてる。

あの日からずっと一樹は優しくて、あたしを笑顔で助けてくれて、言葉が出てこないあたしの代わりに言葉を繋いできてくれた。


「……いつき……」


一樹の指をゆっくりなぞる。

しなやかで長いこの指はいつもあたしに優しくふれた。


「あたしはいつも助けられてばかりだ 」


ぐっと胸が詰まって苦しい。


どうして? あたしは何もできないの?


一樹が、弱ってるのに……
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