SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……おかしい 」
ふつふつと、何かが胸にこみ上げる。
こんなに助けてもらって、なんの恩返しも出来ないなんて……
薄情にもほどがある。
「 そんなのおかしい!」
あたしは右手を大きく開いた。
左手をうしろに重ね、ジッと手のひらを凝視する。
この声が届くかわからない。 でも——、
("お願い伯耆坊! あたしに力を貸して!")
あたしは伯耆坊に呼びかけた。
——シン……
反応はない。
それでもあたしは心の中で呼び続ける。
("お願い! 一樹の力になりたいんだ!")
——シン……
("お願い伯耆坊! お願いだから、お願い!")
——シン……
("あたしに力を貸して!")
ギュッと目を閉じ、手のひらをおでこに押しあてる。
すると、
"ジワ〜"
にわかに感じる手のうずき
「……っ!」
そこには“五”の字に似たしるしが浮かび上がっていた。
("ありがとう伯耆坊")
あたしはスッと立ち上がった。