SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「 しるしの力ってそんなに強大なものなの? D.S.Pみんなの力を合わせたって、その力に敵わないんじゃ…… 」
すると、
「 ユリさん 」
目を伏せながら一樹がそっと口を開いた。
「……少し、美空と二人きりにさせてもらえませんか?」
「……一樹くん?」
「 すみません、話したい事があるんです 」
一樹は影を落としたような、力のない表情を見せる。
「……そう」
戸惑いながらユリが立ち上がる。
そのまま、ズルズル黒木を引きずって、あたしの部屋を出て行った。
「……?」
姿勢を変え、あたしはベッドの下に足をつく。
目の前には一樹が横を向いて立っていた。
「……いつき?」
一樹はゆっくりこちらに向き直る。
そして、悲しげにあたしを見下ろすと、
「 何故、あんな無茶をしたんです 」
沈んだ声でそう言った。
「……なにが?」
「 昨晩、あなたがわたしにした事です。しるしが導いたのですか? そうしろと 」
「……あ~、ちがう。昨日はあたしが呼び出した 」
「……呼び出した?」
一樹の眉がピクッと動く。
「 伯耆坊! って心の中で。何度も何度も呼んだらしるしが——」
「——美空っ!」
一樹が詰め寄り“ガッ”とあたしの肩をつかむ。
腰を落として目線を合わせた。
「 では、全部あなたの意思ですか! 不要な記憶を取り払ったのも、あんなにも苦しんで出現させたレンズも!」
「……うん 」
「 何故そのような事を! 一度に膨大な量の記憶除去。ましてや、自分以外の他人の能力のレベルを上げるなどまさに神の領域っ……わたしが見た限り、あれは命を削るような危険な行為だったはずです!」
悲しげな顔に一樹は怒りの色をにじませた。
「……いつき……」
「 そんな事をして、わたしが喜ぶとでも思ったんですか!」
一樹の表情は硬い。
その瞳に優しさなど、今はひとかけらもなかった。