SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

……そうだよ。

あたしが見た伯耆坊はこんなカラスみたいな鳥人間じゃない。

ちゃんと人間の姿をした、湧人みたいなきれいな顔……


「…………」


あたしは湧人を見つめる。


「 湧人。きれいな顔、してるね 」

「……っ、なに言ってるの!」


湧人はバッと横を向く。

テーブルにヒジをついて、あたしがこれ以上近づかないようにガードした。


……?

そっと湧人の髪にふれてみる。

背中がピクッてなったけど気にしない。


……さらさら……


明るいブラウンの湧人の髪の毛。

やわらかくて、まっすぐで、少しだけ、毛先が外へはねている。


「 もう! 全然集中できないから!」


湧人が横目でじろっとにらむ。


……あれ。


「……湧人、怒った?」

「……べつに 」


湧人はちょっとツンとして、また目の前の本をパラパラめくった。


「…………」


あたしはぼんやり外を眺める。

ジリジリと照りつける太陽が、一面に広がる庭木や草花をまぶしいほど色鮮やかに見せている。


——ティン……

金魚鉢をさかさまにしたような風鈴が涼やかな音を響かせた。


「……あのさぁ、」


しばらくして湧人が顔を上げる。


「 質問、いい?」

「……うん 」


"少しずつ……とりあえず、オレの質問にだけ答えてくれる?"


以前、湧人が言った言葉。

そのスタイルは今も変わらず続いていた。

あたしは湧人から質問された事だけに答える。



「 そもそも、どうしてみくが天狗と融合? オレ、古い文献とか、ネットでもいろいろ調べたりしてるけど……

天狗と融合出来たのって、本当に何年も山ごもりして厳しい修行を積んだ、肉体的にも精神的にも鍛え抜かれた仙人みたいな人らしいんだ。 

みくは、とてもそんな風には見えないんだけど…… 」


最後の方を言いにくそうに湧人が言った。
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