SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「 あ~、」
あたしはひと息ぶんの間を置く。
……そう。
本来なら厳しい修行を積み、霊力を極めた一部の山伏と天狗たちは融合したって言っていた。
もともとのあたしの器は弱い。
しるしの力を使い過ぎれば、体の方がだめになる。
だからこの間だって……
「……うん。天狗も前代未聞って言ってた 」
「 へぇ、」
「 でも、この間話したレムリア。伯耆坊も分からないけど、なんか助けろって分からないけど言ったって 」
「……ああ、あの光の龍が伯耆坊に言ったんだ? みくを助けろって。でも、レムリアがどうしてそんな事を言ったのかは伯耆坊にも分からない…… 」
「 うん 」
「……ん? 助けろってなんで? みく、何か危ない状況だったの?」
……あ〜、
「 あの時は、悪い奴に殴られて薬打たれて血まみれで、死にかけたんだ 」
「……えっ!」
——ガタッ!
湧人が大きく体を揺らす。
そのまましばらく固まった。
「…………」
「……湧人?」
「…………」
「……湧人? どうしたの?」
「……はあ〜、」
湧人はゆっくり深呼吸すると、立ち上がり、部屋の奥へと歩いていく。
……?
すぐにここへ戻ってきた。
「……ん、」
あたしにペットボトルに入ったリンゴジュースとチョコレートを差し出してくる。
「 甘いものは気分を落ち着かせてくれるんだ」
湧人はチョコを一つほおばった。
……?
あたし、別に落ち着いてるのに。
そう思いながら、あたしもチョコを口にする。
「……おいしい……」
冷蔵庫に入れられていたのか、チョコはひんやりとしていた。
今まで、お菓子類はお昼に食べる"パワーカロリー"しか食べなかったから、チョコの甘さが体にしみた。
「 そう? まだあるからたくさん食べなよ。みく、ちょっとやせすぎだし 」
湧人は"レモンウォーター"と書かれた透明な飲み物をクイッと飲んだ。