SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「 みくが天狗と融合して良かった 」
「……え?」
「 だってさ、そうじゃなかったら、みく死んでたかもしれないんだろ?」
「 うん。 ……まあ 」
「 じゃあ、良かった 」
湧人はほんの少しだけ微笑んだ。
「…………」
……ああ、ムズムズする……
たまに見せるこの湧人の表情が、妙にあたしの内側をくすぐった。
そういえばユリが言っていた。
子供はかわいい、見てると癒されるって。
このムズムズはあれなのか、
“ 母性本能 ”って、やつ……
「 話の続き、また今度聞かせて?」
うしろを向き、湧人は再び本を読む。
「…………」
あたしはそっと湧人に近づいて……
"ギュウ"
おなかに手をまわして抱きついた。
「……っ!」
途端に湧人の体が跳ねる。
「ちょっ……なにっ⁉︎ なんなのっ⁉︎」
「 あ~。母性本能?」
「 はあ⁉︎ なに言ってるの⁉︎」
「 だって 」
「……っ、子供扱いしないでくれる! オレだって来年中学なんだから!」
湧人はわたわたと身をよじる。
「……もうっ! 暑いのが余計暑いって!」
そう言う湧人の横顔は、確かにほんのり赤かった。
「 ごめん 」
あたしはパッと体を離す。
「 もっと涼しくなってからにする 」
「 そういう事じゃないから!」
湧人はオレンジのTシャツをパタパタして、レモンウォーターをがぶがぶ飲んだ。
……?
あたしは汗をかき始めたチョコをパクッと食べる。
……あれ。
「 湧人? 今日、お婆ちゃんは?」
そういえば、ここに来てから今日は一度もお婆ちゃんの姿を見ていない。
「……ああ、婆ちゃんなら今日は病院で定期健診 」
「 定期健診?」