SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
……その後、
なんとか住所を一樹に伝え、待つことしばらく……
——ガチャ、
爽やかな風と共に、スラリと背の高い一樹がスタスタと署内に入ってくる。
「 すみません、この子の兄です。妹が何か迷惑をお掛けしたようで 」
「……ん? ……はて? まだどこにも連絡しとらんはず…………え??」
一樹は歩く速度を緩めず、迷いなくオマワリさんの額に手をあてる。
淡い緑色の光が一樹の手を包んで……
数秒ほどでパッと離れる。
「 では、妹は連れて帰ります。調書はすべて消去しておいて下さい 」
「……ああ、分かったよ 」
オマワリさんは何ごともなかったように席に着き、ファイルの紙をビリビリと破いた。
「 行きますよ 」
一樹と一緒に外に出る。
もう夜の12時になろうとしていた。
車の往来以外、人影などはほとんどない。
「 一樹、ごめん。D.S.Pは? 」
「 いいんですよ。少し抜けるぐらい何ともありません。それに、最近は以前よりも早く仕事を片付けられる。 ……まったく、誰のおかげでしょうか 」
一樹はクスリと笑みをこぼした。
「……?」
よく分からないけど、良かった。
一樹と会うのは伯耆坊を呼び出したあの日以来だった。
あの日、いつもと少し様子の違った一樹。
でも今は普段と変わらない穏やかな顔を見せている。
——ガチャ、
あたしは一樹の車の助手席に座る。
車はゆっくりマンションまでの道を走り出した。