SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……どういうこと?」
どこか寂しげな雰囲気。
前を見つめながら、一樹は静かに口を開く。
「……わたしには、兄弟がいたんですよ 」
「……きょうだい? いもうと? 」
「 いいえ、弟です。 これがだいぶ手のかかる弟でして……。 すぐに無茶をするといいますか、極端といいますか……そういう所は誰かさんとよく似ていますかね」
「……?」
「 頭がスッキリした分、最近はよく彼を思い出します。わたしにとっては大切な宝物でしたから 」
「……死んだの? 弟 」
「 いいえまさか。生きていますよ。 ……でも、わたしは二度と彼に会う事はありません 」
「 どうして? 」
「 それが、彼の為だからです 」
「……?」
一樹は冷房の風を調節する。
爽やかな香りと共に冷たい風が、あたしの頬に吹き付けた。
「……まあ、D.S.Pに携わる者であれば、みんな何かしらの事情があるものです。 特別な力を授かるとは……ある意味、己の孤独と闘い、代償という苦しみに生きる……そういう事かもしれませんね……」
……?
「 難しすぎて、わからない 」
首を傾げたあたしに一樹はフッと息をこぼす。
「 一樹、日本語で喋って 」
「……喋っていますよ?」
黒い車は夜に紛れ、暗闇に伸びる道を、ただひたすらに走り続けた……