SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


《 ……どうして? 》


どこからともなく聞こえる声……



《 あなたの記憶なのに 》



《 どうして逃げるのっ!! 》


————ギンッッッ!!!


ヒモが上下にバックリ開き、ギョロリとした巨大な目玉が出現した。


「……っ!」


凄まじい眼力、

肺の中の空気がギュッと圧迫されている……


「……うぐ、ぐっ、」


《 ねえ、ちゃんと聞いてよ 》


……この目玉が、声の主。

それはだんだん距離を詰め、黒い瞳孔にあたしを映した。


《 ちゃんと見てよ 》


……いやだ。

いやだ。いやだ。いやだ。

あたしの全部が拒否反応を起こしている。

細胞の一つ一つが得体の知れない何かに怯え、悲鳴をあげている様だった。



《 聞いて。聞いて。聞いて 》


「……いや……」


《 見て。見て。見て。見て 》


「……やめてっ! 何も聞きたくない! 見たくない! いやだっ!!」


"……ゴゴゴ………"


瞳孔が激しく震えだし、目玉が赤く血走ってゆく……



"ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!!"


《 聞けえええええ~ッッ!! 見ろオオオオオオオ~ッッ!!!!》


一瞬にして目玉がダイヤ型の大きな網に変化した。


「……っ!」

シュルルルルッッッ!!

網はあたしを縛り上げ、体の自由を完全に奪う。


——ピカッ!


眩しい閃光と共に、あたしの意識はある場面へといざなわれた。
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