SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「 やめなさい、美空!」
そこにいたのは一樹だった。
一樹はすぐに包丁を奪う。
「……っ! 」
あたしは一樹と距離を取った。
「「……美空っ! 」」
黒木とユリが駆け寄って来て、
「「……やっぱり!! 」」
顔を見合わせる。
「……ハアッ、ハアッ、」
三人を見つめながら、あたしは荒い呼吸を繰り返した。
「……美空、何か記憶を取り戻したのでしょう? その様子ではもはや理性も保てず、自制出来なくなっているのでは……」
様子を伺うように一樹があたしに近づいてくる。
「今日はとても無理です。放ってはおけません」
額に伸びる一樹の手……
——パシッ!
「やめて!」
あたしはとっさにその手を跳ね除けた。
「……美空?」
一樹が驚いた顔で見つめる。
「さわらないで!」
あたしは強く一樹を睨みつけた。
「……どうしたんです」
「なんでっ!」
「……美空?」
「なんで! なんでその能力! きらい! きらい! 大っきらいっ!」
……怒りが、全部一樹に向いていた。
自分が、何を喋っているのか分からない。