SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……?」
「ミクが笑ったあ~! ミクが! ちょ、もっかい、もっかい笑ってミクう~!」
しがみついて黒木は目を輝かせた。
「……ん、」
あたしはニッと口角を上げる。
「……ちが~う! 作ったのじゃなくてえ~! さっきみたいな自然のやつ~!」
……自然のやつって……
「ムリ」
「ええ~⁉︎」
黒木はシュンと小さくなった。
「……でも、いいや! ミクの初めての笑顔、見れたし♪」
……?
「初めてじゃない」
「……へ?」
「この間、初めて笑えた。玉ちゃんたちの前で」
「……タマちゃん? なんだソレ? ネコかぁ? 」
「ううん。玉ちゃんはおじさん。四角い顔の友達なんだ」
「……おじ、さん……」
「……?」
「……マケタ。どこぞやのオヤジに……マケタ。ミクの初笑いを……チクショ~!」
肩を落とし、黒木はアフロをかき乱した。
……?
感情がコロコロ入れ替わる黒木がよく分からなくて、首を傾けながらあたしはゆら〜っと視線を漂わせる。
「……あ、」
夜が明けてきているのに気付いて、窓の方へ足を向けた。
……朝だ……
東の空に澄んだ青色が差している。
「黒木。あたし、徹夜、初めてかも」
つぶやくようにそう言うと、黒木がまたも瞳を輝かせた。
「ええ~っ⁉︎ つ〜ことはぁ、ミクと初めての夜明け~? ヨッシャア~!!」
喜ぶ黒木……
「見たかオヤジ~! オレは夜明けのミクをゲットしたぁ~! イチバ~ンっ!!」
「……?」
あたしには、なんでそんなに黒木がハシャいでいるのかは分からなかったけど、
今まで以上に胸に感じるあたたかさ……
この確かな温もりに包まれて、あたしの心は満たされていた……。