SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
——ジャラ……
さっきの数珠を手首につけ、あたしは自分の部屋を出る。
時刻は夕方4時……
そろそろ黒木とユリが起きる時間。
「おお~ミク! おまえも食うかぁ?」
共有リビングでは、もうすでに起きていた黒木が “ ガパオ ” なるものを食べていた。
「いらない」
冷蔵庫からペットボトルに入ったリンゴジュースを取り出し、黒木の横に座る。
黒木はもぐもぐ口を動かしながら、じっとあたしの方を見た。
「ン〜、も~ちょっとかな〜? ……いや、やっぱマダかな〜?」
「……?」
「やっと灰色が薄くなってきたよ〜な……? しるしの完全復活まではもう少しカナ〜? いや、まだカナ〜?」
「……そう、」
あたしはリンゴジュースをクイッと飲んだ。
「おお? ソレ、役に立ってるかぁ?」
黒木が手首の数珠に目を留める。
「うん」
「そっかそっかぁ~♪」
満足そうに微笑んだ。
大粒の珍しい黒水晶。
これはこの間、黒木があたしにくれたもの。
なんでも京都の有名な坊さまの、強い念がこもってるとかなんとか。
その効果は抜群で、今月に入ってから、あたしは6体ほどの霊をこの数珠で追い払った。
もちろん、さっきみたいなムヤミヤタラに襲いかかってくる悪霊だけをぶっ叩く。
「……しっかし、ESP能力者は大変だナ。アイツらも最近よくこーんな顔してヨオ。……あ、ヒロカズだけはもともとだけどナ~ 」
しかめっ面のあと、黒木は “ ハハン ” と笑って見せた。