SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
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「……これでいい?」


お婆ちゃんの首にネギを巻く。


『んだ。風邪にはこれが一番効くだ』


もったりした感じのご先祖さまが “うんうん” と頷いた。



午後3時。

あれからずっと、湧人とお婆ちゃんの看病に追われていた。


『ほれほれ、次は湧人んとこさ……』
『はよう様子を見て来ておくれ』
『ほんに、もどかしい……』
『ワシらには無理だからのう……』


「うん」


あたしはスッと立ち上がる。


実は湧人に関して、ある意外な事が分かった。

湧人は、霊とか人の念のようなものを跳ね返してしまう珍しいタイプの人間らしく、ご先祖さまは誰も二階へ近付く事が出来なかった。

そんなタイプがいるなんて、あたしは初めて聞いたけど、まれに存在するものだとご先祖さまは教えてくれた。



『湧人の事は新しい人に聞きなせ』

「わかった」


あたしは2階へ続く階段をのぼる。

階段の途中には白い服を着た"新しい人"が立っていた。

優しい雰囲気の、まだ若くてきれいな人。

どうやらココまでが湧人に近付ける距離の限界らしく、さっきからずっと新しい人がここにいた。


「……あの、」


声をかけると新しい人はふわっと微笑む。


『また熱を計ってみてくれる?』

「うん」


指示を受け、あたしは湧人の部屋へと入った。


「…………」


湧人の顔はだいぶ穏やかなものになっていた。

規則正しい寝息を立てて、ぐっすり眠りこんでいる。


……えっと、


体温計で熱を計り、首元の汗をふき取る。

そのうち “ ピピピ ” と電子音が鳴ったので、体温計を新しい人に見せにいった。



『……37度8分……』


さっきよりは安堵した表情。

だけどまだ新しい人の表情は硬い。


『また、おでこと扁桃腺の所を氷で冷やして、あと汗をかいていたら着替えさせてくれる? それと……』


新しい人はあたしに細かく指示を出す。


……えっと、 氷、 扁桃腺……


あたしはだいぶモタつきながら、言われた通りに動き回り、


「……ふう、」


なんとか着替えさせた所で一息つく。

新しい人の隣で休憩した。

手にはさっき脱がせた湧人の服……
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