SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
『いろいろさせてしまってごめんなさいね。間接的にでも、湧人の為に何か出来る事がうれしくて……』
新しい人は申し訳なさそうな顔をする。
「ううん。あたし何にも分からなかったから。いろいろ教えてもらえて良かった、だいぶ助かった」
『……そう?』
新しい人は微笑んだ。
「…………」
あたしは新しい人の顔に見入る。
本当にきれいな顔立ち……
さすがこの家のご先祖さま。
湧人と顔がそっくりだ。
『……あの子ね、いっぱいいっぱいになると熱を出すの。お婆ちゃんが風邪で倒れて、何とかしなきゃって、きっと必要以上に自分を追い込んじゃったのね』
考えるように新しい人が言ってくる……
「……そう、なんだ」
『我慢強いっていうか何ていうか……。滅多に弱音を吐かないし、困った事があっても一人で解決しようとして抱え込んでしまうの。本当は誰かに頼りたいのに……』
「…………」
『今回だってそう。本当は助けて欲しいのに、あなたにそれを言い出せないで……』
……あ。
あたしは、少し様子がおかしかった湧人の電話を思い出した。
……そうか、
あれはそういう事だったのか……
なんだか胸が締め付けられる。
この頃はあたしもだいぶ湧人の事が分かってきたから、大丈夫じゃないのに大丈夫って言ってしまう湧人の態度が想像できた。
「あの! 新しい人さん!」
決意を込めてあたしは言う。
「今度からあたし気をつける! 湧人のこと、もっと聞く! 助ける! 勉強する!」
『……え?』
驚いた顔の後、新しい人はクスクスと一人笑い出した。
『……ふふ、ありがとう。でも、あなたはもう湧人の力になってる……』
「……え?」
『あなたに出会ってから、あの子だいぶ変わったの……寂しい顔をしなくなったし、それに……』
「……?」
『……ううん。あなたと一緒だと、あの子すごく楽しそう』
新しい人はふんわり笑った。