SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「あ~。直すの面倒だからそのままにしておいた」


そう言うと、湧人は息をのんであたしを見つめた。


「……待ってみく……それってまさか、オレを着替えさせたって……こと?」


「そうだけど?」


「……っ!」


湧人の顔がみるみる赤くなっていく。

口を半開きに、なんかワナワナいっている……


「みくのエッチ!」


そう言うとすっぽり布団にくるまってしまった。


「……湧人? どうしたの?」


「知らないっ!」


「……?」


……なんか、怒ってる。

訳が分からないままあたしはスッと立ち上がる。


「湧人、すぐ戻るね」


団子になった湧人に言ってあたしはいったん部屋を出た。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「もう大丈夫だよ」


湧人の熱が下がった事を伝えると、ご先祖さまたちはみんなホッとした顔をした。


『んだば~ほれ』
『さっきのやつ湧人さ……』
『はよう持ってってやんしゃい』

「うん」


あたしはキッチンに置かれたトレイを持ち、再び湧人の部屋に戻る。


「……湧人?」


湧人はさっきの団子のまま……


——カチャ、

あたしはガラステーブルの上にトレイを置いた。


「……湧人?」


「…………」


「のど、かわいてない?」


「…………」


「おなか、すいてない?」


「…………」


「これ、食べる?」


すると、ピクッと湧人が反応し、ゆっくりこっちに振り向いた。

あやしい者を見るような目つきで、あたしとテーブルの方に目を向ける。

テーブルの上には、お粥、しょうが湯、野菜ジュース、すりおろしたリンゴ。
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