SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「……湧人。それ、新しい人だ」


「……新しい、人?」


「新しい人が作った。あたしに憑依して」


「……憑依……?」


「新しい人は、湧人のお母さんだ」


「……っ!」


湧人が息をのむのが分かった。

その瞳は大きく見開かれる……


「……いる、の?」


「……え?」


「……母さん。ここにいるの?」


「あ~。さっきまで階段に……」


——ダッ!

湧人が突然そこから駆け出す。


「……母さん!」


キョロキョロしながら階段を一段一段下りていく……


「……ねえ! 母さん!」


「……湧人!」


あたしはそんな湧人に叫んだ。


「もういない! この家には!」


「……っ、」


一階まで下りた湧人の足がそこで止まる。


「憑依するの消耗する、エネルギー、すごく、だから……」


「…………」


「もう、ここには、いない」


……しばらくの間の後、


「……そっか……」


一言、湧人がそうつぶやく。


「…………」


うつむいたままの小さな背中……


久しぶりに見た。


湧人の寂しそうな後ろ姿を……


……ゆうと……


——タッ……

思わず前に足が出る。

よく分からない感情が、強くあたしの心をあおって……


——ダダダダ……!


滑り降りるように一気に階段を駆け下りたあたしはギュッと湧人の背中を抱きしめていた。


「……!」


ビクッと湧人の体が揺れる……
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