SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
……あ。
そこにいたのは、玉ちゃん。
「親父!」
「玉ちゃん!」
柳と小暮に支えられ、玉ちゃんはゆっくり部屋に入って来た。
「親父、無理するな!」
「玉ちゃん、大丈夫?」
「あん? ワシを誰だと思ってる! こんな傷、痛くも痒くもないわ! ……おお、大丈夫だぞ美空。お前のおかげだな、ありがとうな」
若には怒り、あたしには目尻を下げて玉ちゃんは微笑む。
黒い着物の間からは白い包帯が見えていた。
「まったく。ワシの居ぬ間にコソコソと」
誰かがサッとイスを用意する。
玉ちゃんはそれに腰をおろした。
「お前、いつからワシの交友関係にまで口を出すようになったのだ? 言っておくが、ワシもこいつと縁を切るつもりはないぞ!」
「……は? 親父! 何を言っているんだ!」
「美空とは今後も友達だ。そうお前に言っている」
「……っ、何故だ! 何故そんなリスクを背負うような真似! オレらならまだいい。だがこいつは……美空が危険な目に遭っても構わねえって言うのか!」
「……フン。お前もまだまだ子供だな。危険だから関わるなとは、自分の力に少しでも不安があるから出る言葉だ。守りきるという、己の力に絶対の自信があれば、何にも囚われる事などない!」
「矛盾している! 襲撃されたばかりの親父が言える事か!」
「ああんっ⁉︎」
二人はそのまま睨み合う。
居心地が悪そうに、柳と小暮は目だけをキョロキョロ動かした。
……それから少し口論は続き、
「……チッ、」
「……フン!」
しばらく時間が経った頃、ようやく二人の視線が離れる。
「……ふぅ、 ……ん、」
一呼吸ののち、玉ちゃんは力なく後ろにもたれ掛かった。
「「ボス!!」」
「親父! どうした! 大丈夫か!」
「ああん? 大丈夫と言っただろう。少し考えを巡らせとるだけだ……」
玉ちゃんはぼんやり上を見上げた。