SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……考え?」
「ああ、しかしいかんな。言葉を選んではいるが、どうもワシには性に合わん」
「……何の話だ」
「柳、小暮」
玉ちゃんは二人に目配せする。
「「……あ、はい!」」
そそくさと、二人は部屋から出て行った。
……?
玉ちゃんと、若と、あたし。
「……親父?」
訳が分からないという風に若が眉をひそめてる。
「……うむ、」
玉ちゃんはあたしと若を交互に見ると、
「ここからは腹を割って話そうか」
穏やかな口調で話し始めた。
「先にいろいろ言うたが……ワシも初めはカタギの娘と馴れ合うなど、そんな危険に引きずり込むような真似……
まして自分の首を絞めるような事は言語道断と固く自分を律しておった。凌駕、今のお前と同じようになぁ」
「……では、何故……」
「お前も気付いただろう。そして戸惑ったのではないか? 美空の何にも恐れぬその振る舞い、ワシやお前の前でも、ヤクザの家に上がっても、何も微塵も動じやせん。
行きつけの店で毎日顔を合わせるうちに、次第に興味が湧いて出ていた。一体、娘はどんな気持ちの持ち主だろうと……
そして話す程に親しみが増していったのだ」
「……だからって……」
「もちろん葛藤はあった。お前の言うリスクも頭としての責任も常にな。
……だが、どうにも興味の方が勝ってしまった。
何かあればワシがこいつを守ればいい。都合のいい言い訳を自分に押し通していたのだ」
「……ハァ。でも、もう分かっただろう。親父も完璧じゃない。100%危険を回避するなんて、守りきるだなんて、そんなこと出来るはずがない」
「ああ。 ワシもそう……思った」
「だったら、」
「いや、思っていた。山を下りる途中まではな」
「……どういう、事だ」
玉ちゃんは少し沈黙する。
姿勢を正し、あたしの方に向き直ると、語りかけるようにこう言った。
「……美空。お前は特殊能力を操る、D.S.Pの人間ではないのか?」