SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

……?

あたしは自分の体を見回す。

特に気にしてなかったけど、露出した腕や足は、確かに所々が皮がむけたり血が滲んだりしていた。


「あ〜、いっぱい山道歩いたし」


「……そっか……」


「いっぱいいっぱい、歩いたし」


「……うん……」


「それでね、それで、それに…………あっ!」


あたしは大事な事を思い出した。


「……なにっ⁉︎ どうしたのっ⁉︎」


「……忘れてた、ごめん……持ってこようと思ったのに、置いてきたんだ……クマ」


「……はっ⁉︎ クマ⁉︎」


「ほら、ご先祖さま食べたいって。山で襲われたから丁度いいと思って」


「……っ、襲われたっ⁉︎ クマにっ⁉︎ ……ちょっ……なにそれっ! 大丈夫だったのっ⁉︎」


「大丈夫だよ。でもごめん。玉ちゃんの家に忘れてきた」


「……っ、いいよっ! そんなの持ってこられても困るだろっ!」


「でも、すごく大きいやつだったよ?」


「そういう問題じゃないからっ! いい! いらない!」


アタフタしながら湧人は首をぶんぶん振った。


……?

怒ったり、うつむいたり、慌てたり……

湧人の表情がコロコロ変わる。



「……それで、その、しるしの役目の方はどうだったの?」


今度は探るようにあたしを見た。


「どうって?」


「玉ちゃんだっけ? 知り合いだったんだろ? 何があったの?」


……ああ、


「土に埋められてたんだ」


「……えっ⁉︎」


「危なかったけど大丈夫だった。さっきも、元気になってたから」


「……そう。 なら、良かった……」


「ワシら稼業は特に狙われる命。油断したみたいだった」


するとピタッと湧人の動きが止まる。


「……ワシら、稼業? 狙われる?」


顔を曇らせ、不審そうにつぶやいた。


「待ってみく、玉ちゃんってどういう人?」


……?


「四角い顔のおじさんだけど」


「何やってる人? 仕事は?」


「ヤクザだって言ってた」


「……っ!」


途端に湧人の顔がこわばる。


「……ちょっ、それどういうこと!」


怒ったようにあたしに言った。


「……? なにが?」


「危ないだろっ! ヤクザとか、何でそんなのと関わってるわけ!」


「玉ちゃんはいい人だよ」


「ヤクザに良いも悪いもないだろ! あいつらはっ……とにかく危険なんだ! もう関わるのやめなよ!」


「大丈夫だよ」


「だめだってばっ!」


湧人は何故か異様なくらい拒絶する。


「……ゆうと……」


あたしはそんな湧人に手をのばす。


「……大丈夫……」


荒立った気持ちを落ち着かせるように、さっと頭をひとなでした。
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