SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

「……?」


……変な湧人。

あたしは再び歩き出す。

ところが、


——ガンッ


段差で転び、その拍子に巻いていたタオルがハラリと落ちた……


……あっ、


「「……っっ……!!」」

——バサッ!

すぐにタオルが飛んでくる。

湧人が自分のタオルをあたしに投げた。


「……っ、もうっ!」

——ドカッ!

こっちには目をくれず、湧人がおもいっきり友達くんに体当たりする。


「……痛っ、」

「おまえっ! 早く帰れよっ!」


顔を赤くしながら、同じく顔の赤い友達くんを力ずくで追い返した。


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——ティン……

風鈴が涼やかな音を立てている。


「…………」


あたしは、縁側で勉強する湧人の後ろ姿を見つめていた。


……う〜ん……


あれから、湧人はものすごくいっぱいツンツンしてる。


「……湧人? なんか、怒ってる?」


「……別に」


「……でも、やっぱり、怒ってる?」


すると、湧人がこちらに振り向いた。


「……別に、怒ってないけど……」


あきらかにムッとした顔。

ぶっきらぼうに湧人は続ける……


「怒ってないけど……もう、あんな格好でウロつかないでくれる? みんなびっくりするだろ?」


「……びっくり、するの?」


「するのっ! 男は、特にっ!」


湧人は少しだけ目を泳がせる。


「……ふ~ん、」


「だからもうだめっ! わかった⁉︎」


「……わかった……」


勢いに押されて思わずうなずく。


「……なら、いいけど」


湧人は “ ツン ” を少し引っ込めた。
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