SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
……う~ん?
あたしはよく分からなかった。
湧人はたまにツンとする。
怒ってないと言うわりには、顔や態度が怒ってる。
あたしには、なんで湧人がツンとするのか、その理由が分からなかった。
"タッタリラ~タリラ~♪"
……あ。
軽快なメロディが聞こえてくる。
お婆ちゃんの日課、腰の幸せダンスが始まった。
……もう4時か。
ダンスは毎日決まった時間に始まる。
風邪の時もギックリ腰でも、メロディだけは流れてきていた。
「…………」
あたしはぼーっと空を見る。
4時といってもまだ陽は高い。
お盆を過ぎても相変わらず、ジリジリとした暑さは続いていた。
すると、
"ジィ〜……シャアアー!"
視界に映る黒い自転車。
それが颯爽とゆるい坂道を登ってきた。
——キッ!
縁側の手前で停車する。
「ヨオ! 元気か?」
黒い瞳があたしを見つめた。
「……うん、」
やって来たのは、透。
「……あっつ!」
白のTシャツをパタパタして、透はドカッと腰を下ろした。
「……また来たの?」
浮かない顔の湧人……
「なんだよ、来たら悪いのかよ」
「だって昨日も来たし。そんな頻繁に来なくて良くない?」
「あのなぁ、オレだって別に来たくて来てんじゃねえっつーの! ただ、コイツの保護者がうるせーの。心配だからオレに様子を見に行けってな」
「……本当にそれだけ?」
「……どういう意味だよ」
二人はバチバチ視線を合わせる。
「……さあ?」
湧人はクルッと背を向ける。
頬杖をつき、また勉強を再開した。
「……とに、生意気なガキだな」
透は小声でつぶやく。
うしろに手をつき “ ハア ” と軽く息を飛ばした。