SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
……?
どうしたんだろう。
急に透の元気がなくなる。
その瞳には暗い影が差していた……
「「「…………」」」
流れる沈黙……
「……そうだな。おまえはオレより大人かもしれねえな」
しばらくして透がそっと口を開く。
「……ハァ、」
また小さく溜息を吐き出すと、
「大声出して悪かった」
透は湧人に頭を下げた。
「…………」
「……透?」
「理解力がねえってのはその通りだ。オレ、人の裏側にまで気が回らねえっていうか……言葉とか態度で無意識に人を傷つけてる事があるらしい。
気をつけてたつもりが、この間、妹にも同じようなことを言われてな。おまえにも図星つかれて、ついカッとなっちまった……」
「……とおる……」
「……別に。突っかかったのこっちだし。オレも……ごめん。言い過ぎた」
湧人は気まずそうにうつむいた。
「……じゃあ、行くわ 」
透はスッと立ち上がる。
「黒木さんにはオレから言っとく。おまえはココで世話になっとけ。迷惑なら、オレももうココへは来ねえし」
元気のないまま黒い自転車にまたがった。
「……ああ、そうそう。宿題はちゃんと終わらせとけよ? おまえの事だから、まだ残ってんじゃねーのか?」
「あ~。……うん」
「……やっぱし。じゃーな! 始業式までには終わらせとけよ!」
フッと微笑み、透はペダルを踏み込んだ。
"シャアアアー!"
自転車が坂をすべりおりる。
豪快に風を切りながら、あっという間に遠ざかった。
「…………」
……うん?
あたしは引っかかりを感じてる。
心にある疑問が浮かんでいた。
「……湧人? 聞きたい事があるんだけど」
「なに?」
「宿題って、やらなきゃだめなの? あたし、まだ全然やってないんだけど」
「……え、」
湧人は顔を引きつらせた。