SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし

◇扇龍のとばっちり

————————————
————————————

——次の日。


あたしはマンションへ “ 宿題 ” を取りに来ていた。

終業式以来、開けていなかったバッグをあけてみる。

中には小道具と、けっこうな量の宿題が詰め込まれていた。

でも、


「くさいっ!」


思わず顔をそむけてしまう。

何週間も放置していたサンドウィッチが、とんでもない悪臭を放っていた。


——ガラ、ポイ!

窓を開け、速攻それを投げ捨てる。


『 ビニ゛ャ゛! 』


外からネコの変な声。


「……はぁ、」


バッグには嫌なニオイが染み付いてしまった。


——ガチャ……


まだ誰もいないマンションを後にする。

湧人の家へとゆっくり歩いた……



……重い。


道の途中、宿題の入ったバッグがズシリと肩に食い込んでくる。


……もう、なんでこんなにたくさんあるんだ。

夏休みなんだから宿題だって休んでも……

——と、 ふと湧人の言葉が頭をよぎる。



『あたり前だろ! 宿題なんだから、やらなきゃだめだよ!』



顔を引きつらせながら、昨日、湧人はそう言った。


……面倒だ。

何だか足が重くなる。

うつむきながら、またあたしはノロノロ歩き進めた。



「…………」


しばらくしてふと立ち止まる。

ここはマンションと湧人の家の、ちょうど中間地点にある屋敷。

自然と顔が上を向く。

視線の先には"ハンカチの木"


「やっぱりきれい」


さっきも見たのに、ついつい足が止まってしまう。

真夏に見るハンカチの木は、葉っぱの真ん中だけが濃い緑で端がうすく透けている。

花はもちろんきれいだけど、葉っぱも宝石みたいにキラキラしてて、あたしはどっちも好きだった。

すると、


「わあ、きれい!」


同じように少女が上を見上げている。


……あ、れ。


「……かおる?」

「……?」


パチリ、少女と目が合った。
< 343 / 795 >

この作品をシェア

pagetop