SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……あの、この間はありがとうございました。助けてもらったのに、あたし、ろくにお礼も言えないで」
「ううん」
その後、あたしは透の妹、薫と並んで歩いていた。
お盆前、スーパーで会って以来だから10日ぶりぐらいか。
透から元気になったとは聞いていたけど、薫はみちがえるほどイキイキとしていた。
「あたし、美空さんとお話したいなって思ってたんです」
ハキハキとした口調。
この間の、暗くうつむいた顔とは打って変わって、薫の表情がとても明るい。
「おはなし?」
「ええ、」
薫がクルッと回り込む。
「これ、本当にすごいです! これを身につけてからあたし、めちゃくちゃ調子が良くて……」
「……あ、」
細い手首がかざされる。
そこには前にあたしがあげた数珠、霊に効果絶大の黒水晶が光っていた。
「本当にありがとうございます。美空さんがいなかったらあたし、今頃どうなってたか……」
薫はギュッと手首をにぎりしめる。
「ううん。元気になって良かった」
コクンとうなずき、薫は再び前を向く。
あたしたちはまた一緒に歩き出した……
「……あたし、あの時すごく気が滅入ってたんです……だから感情的になって、取り乱しちゃって……」
「……あ~、」
あたしはスーパーでの事を思い出す。
話の内容は忘れたけど、あの時、薫は透と何か言い争いをしていた。
薫の悲しそうな顔だけは、今でもはっきり覚えてる。
「……あの後、家に帰ってからもお兄ちゃんとケンカして……。 お兄ちゃんっていつも正論ばかりでしょ? あたし頭にきちゃって、ついひどい事を言ってしまったの……」
「……ひどい事?」
「お兄ちゃんにあたしの気持ちなんて分からない。こんなに苦しんでるのに責める事しか出来ないなんてそれでも家族なのかって……。 家族がいても、あたしの心はずっと一人ぼっちだったって……」
「…………」
「……あれ以来、なんかお兄ちゃんとはギクシャクしてて……。 言い過ぎたって反省してる。でも、あの時はどうしても自分が抑えられなくて」
薫は唇を噛みしめた。