SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


大きな袋が積み重なった狭い部屋。

薄暗いその部屋で少女は一人怯えていた。

両手両足をガッチリ縛られ、口元には粘着テープ……


「……ン! ……ンン!!」


突然現れたあたしに、発作でも起こしたように少女は体を震わせる。


「……ンー! ンー!」


すぐに地べたを這って逃げだした……


——ゴツ、ゴッ!


でも、うまく体を動かせないのか、固いコンクリートの床にしばしば頭を打ちつける……


「大丈夫だよ!」


あたしはとっさに声をかける。


「……!」


「……大丈夫……」


落ち着かせる為、フードを外して顔を見せる……


「……⁉︎」


「……大丈夫。あたしは敵じゃない」


そう言うと、少女の震えは小さくなった。


「縄、ほどいてあげる。近寄ってもいい?」


まだ恐々見てるけど、少女はコクンと首を動かす。

あたしは急いで手足の縄と粘着テープをはがした。


「……ハァ、 ……あ、の、」


戸惑う少女……


——ガサ……


あたしはごそごそバッグをあさり、


「ケガ、してるよ」


絆創膏を取り出して少女の額にペタッと貼る。

さっき額をぶつけたせいで、少しだけ血が滲んでいた。


「……あ。 ……あり、がとう。 あの……どうして、あな、たは……?」


まだ少女の震えは止まらない。

クリッとしたつぶらな瞳には、さっきからずっと涙が浮かんでいた。


「あ~。あたしはちょっと探検してて」


マニュアルの中から言葉を探す。

いつもなら事件の時、あまり顔は見られないようにしている。

今日は少女を落ち着かせる為に、あえて顔を見せてしまった。
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