SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


……あ~もう。

そっと返して立ち去ろうと思ったのに。

うしろを向いたあたしの背中に、みんなの視線が集中する。


「……ひな?」
「……陽菜なのか⁉︎」

「「……陽菜っ!!」」


なんかワラワラ寄ってきた。


「……陽菜っ!」


一人が背中から “ ヒナ ” を奪う。


「……んっ、 ……哲平?」


目を覚ましたっぽい “ ヒナ ”


「陽菜! 大丈夫か!」


「……う、ん……」


「……ハァ。 良かった……」


安堵した空気が広がった。


「「オイ! 銀髪!」」
「「誰だテメーッ!」」


次に背中に感じるのは、


「「……⁉︎」」
「「……誰、なんだ?」」


落書き集団のあたしへの怒りと、敵か味方かを探るヒナ軍団の戸惑い。


「……? ……おめえ……」


「…………」


……あたしは、


——ダッ!


その場から一目散に逃げ出した。


「……えっ、あっ! オイッ!」


声を振り切りあたしは走る。

だって、もう事件は解決した。

わざわざ大勢に顔を見せても仕方ない。

……ところが、


「「待ってくださーいっ!!」」


さっきの金髪二人組があたしの後ろを走ってる。

必死すぎる形相で、二人はあたしを追ってくる。


……え、なに?


意外と足の速いその二人はすぐに追いつき、あたしのパーカーの裾をつかむ。


「……離せ」


「だめっス!」
「絶対離さないっス!」


……なんなの?

あたし、何か悪いこと、した?


——バッ!

つかまれたパーカーを脱ぎ捨てる。


「「あっ! ……待っ……」」


二人を振り切り、あたしはさらにスピードを上げる。

ところが、


「「ミクさーーんっ!!」」

「 ! 」


その言葉にあたしは“ビタッ!”と足を止めた。
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