SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「行くぞ」


促すように歩き出す。


……?


「行くって、どこに?」


「おまえの家だ。必要なものがあるだろう。それを今から取りに行く」


「……えっ、今から?」


思ったより大きな声が出てしまう。


「そうだ。何か問題あるか?」


奏太がジッとあたしを見据えた。


「あ~。大丈夫かな、と思って」


「……なんだ? 昨日とはまるで違うな。引き止めても頑として譲らなかったおまえが。今頃怖くなったのか」


「……だって、」


「大丈夫だ。連中は今それ所じゃねえはずだ。ダウンしている今のうちに用事は済ませた方がいい」


……大丈夫じゃないのに。

ダウンどころか、逆に勢いづいているのに。


「……あのさぁ、行くの、あたしと奏太だけ?」


「ああ、単独の方が動きやすい。多いと逆に目立つだろう」


「……でも……」


さっき、バキは千人超えって言っていた。

いくら奏太が強くても、一度にそんなに来られたら……

あたしでもキツイっていうか……

すると、


"ブー、ブー、"


タイミングを計ったようにメールが立て続けに飛んでくる。


“ゴミを少し片付けておく”

“取り合えず家の前のそうじは済ませた”


……? ……だれ?


全然知らないアドレスだ。

そうじしてくれたって……

もしかして、ゴミ屋さん?


「……どうした 」


奏太が顔をのぞき込む。


「あ〜、よっぽど散らかってたらしい。そうじしてくれたってゴミ屋さん」


「……なんだそれは」


「よく、分からない」


「……ったく、訳の分からねえ。ほら、いいからさっさと行くぞ!」


——グイ!

手を引かれ、あたしは奏太とアジトを出た。
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