SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


エントランスへ戻ると、奏太が深く眠りについていた。

起こさないようにそっと近付く……

間近でその寝顔をのぞき込んだ。


「…………」


……無防備だ。

寝ている時は素の奏太だ。いたずらっ子のような無邪気な感じが伝わってくる。

こっちの方が全然いいのに。

なんで本当の自分を隠すのだろう。

心を、閉ざしているのだろう……


「……はあ、 」


……わからない。


あたしは外へ視線を移す。

日が暮れて辺りは暗くなっている。

マンションに面した道路には、あまり人も車も通ってなかった。


——シン……


それにしても静かだ。


"ジジ"


センサーで辺りを探ってみる。

来た時もそうだけど、やっぱり今も、バキの気配は感じられない。


……変なの。


いつ襲ってくるかと思って、ちょっと身構えていたのに、さっぱり何も襲ってこない。


……どうしたんだろう。


あいつら、何かあったのかな?

すると、


「……ん、」


奏太のまぶたがピクッと動く……


「奏太?」
「……!」


目が開いたと同時に体がビクンと跳ね上がる。

焦ったように奏太は頭をガシガシかいた。



「……おまえっ! 準備出来たのなら、黙ってないで早く起こせばいいだろう!」


……?


「だって、本物だったから」


「……本物? 何がだ」


「奏太の顔。作り物じゃなかった」


「……おまえっ! どういう意味だっ! まさか変なイタズラしてねえだろうなあ!」


怪しむように奏太は顔をゴシゴシこすった。
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