SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「よっぽど大事に育てられたんだな。そんなおまえを巻き込んで……家族には本当に申し訳ない」
「……家族?」
「心配するな。家が留守だと言うからウチで預かったが、親が戻り次第おまえは帰す。危険が及ばない様その後はオレが——」
「——親はいない」
さえぎるようにあたしは言う。
「……は?」
「親はいない。 二人とも死んだ」
もう一度はっきりそう言うと、奏太は驚いたような顔をした。
「……しかし、昨日……」
「あ~、保護者? 一緒に住んでるやつはいる。二人、あんまり家にいないけど」
「……そう、だったのか……」
「うん、そうだった」
あたしはグ~と伸びをする。
「……なんだ。おまえも意外と苦労してんだな」
奏太は呆然とつぶやいた。
それから、あたしたちはまた扇龍のアジトへと戻った。
「……おまえ、ふざけんな……」
アジトへ着くなり奏太がグタッとヘタりこむ。
誰かの飲みかけペットボトルを手にすると、グイッと一気に飲み干した。
「……ハァ~……」
深く長く息を吐く。
ゆっくり呼吸を整えると、奏太はあたしと向き合った。
「あのなぁ! オレらは暴走族だが最低限のマナーは守るぞ! それがどうして……! おまえの方が非常識とは一体どういう事なんだっ!」
……?
なんか奏太が怒ってる。
「……なんのこと?」
「なんのことって……さっきの事だっ! おまえ人の車に目覚まし時計投げ込んだだろーがっ!」
「あ~、」
なんだと思ったらその事か。
「起こしてやった。あれ、寝ながら運転してたから」
「……は⁉︎」
……だって、
右手のしるしがあたしを呼んだ。
だからあたしは、居眠り運転の車を見つけ、開いていた窓から目覚まし時計を投げ込んだ。