SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「起きて良かった。あのままじゃ事故、なってた」
「……居眠り運転、してたって事か。 だからおまえは……それで…………は??」
頭に手をあて、奏太が何か考える。
さっきみたいにくるくると、いろんな表情を浮かべていた。
……?
「……奏太?」
「……いやっ、だからっ!」
振り切るように奏太が言う。
「人助けは分かった。いや、だいぶ分からないがそういう事にしておこう……だがっ、」
「……?」
「おまえにはルールが必要だっ! いいか! 今度から静かにバイクに乗れ! 動いたり暴れたり手え離したら危ねえだろバカっ! バイクから何も投げんな! バックに目覚まし時計を詰め込むなっ!!」
まくしたてるように一気に喋り、奏太はハァ〜と息をつく。
「ルールは守る為にあるんだからな! ……って、おまえちゃんと聞いてるのかよ! 返事は!!」
「……わ、かった……」
本物奏太に詰め寄られ、あたしは思わず頷いた。
「……ふう〜、」
奏太はクルッと背を向ける。
「オレは疲れた、もう寝る」
そう言うとアジトの奥へと歩いていった。
——ザワ……
なんだあれ。
あたしはやっぱりよく分からない。
不思議な男だ、月島奏太。
よく寝る男だ、月島奏太……
ぼんやりと、あたしは背中を見送った。
すると、
——ザワザワザワ!
大きく雑音が沸き起こる。
見ると、さっきより人数は少ないものの、そこにいる全員の目があたしの所に向いている。
まるで珍しいものでも見るように、びっくりした顔でこちらを遠巻きに見つめていた。
「……美空ちゃん……?」
おそるおそる、陽菜が声をかけてくる。
「……奏太、どうしちゃったの?」
「なにが?」
「……だって、あんな奏太初めて。喋り方とか雰囲気とか、なんか別人みたいだった……」
陽菜は信じられないといった顔をした。