SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
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「「「はよーっス!」」」


午後を過ぎると少しずつ人が集まってきた。

昨日と同じく、おはようのあいさつがアジトに飛び交う……


「美空ちゃん、奥に行かない?」


陽菜が幹部の間を指さして言う。


「ううん。あたし、ここにいる」


「……そう。じゃあ、私はあっちにいるね」


ソワソワしながら、陽菜は奥へ歩いていった。


「…………」

——ヨロ……

人目を避けてあたしは歩く。

壁際まで来るとペタンとその場にしゃがみ込んだ。


——コツン。

壁におでこを押しあてる。


「……おなか、すいた」


冷たいコンクリートにつぶやいた。


実は、ここ数日、あたしは何も食べていない。

食べる機会はあった。

扇龍に来て三日。ここにいる間、陽菜があたしのご飯を作ってくれた。

……でも、

食べる直前、何故かいつも電話がくる。

電話が終わると、いつの間にかあたしのご飯がなくなっているのだ。


犯人は朝のヒョロヒョロ男だった。あの男があたしの分まで奪って食べる。

さっきのお昼のオムライスだってそう。

ヒョロヒョロ男は、食事を出されてすぐに手をつけないと残したと思うらしかった。


悪気はないみたいだから仕方ないけど……


ヒョロヒョロ男の食欲はすごい。

まさにヤセの大食いで、陽菜が作った料理はほとんどあいつが食べていた。


「……あの……」
「……美空さん?」


しばらくすると誰かが声をかけてきた。

この声は……


「キツネ、くん?」


壁に向かったまま喋る。


「……何、やってるんスか?」
「……こんな所で……」


キツネ二人は同じように、あたしのそばにしゃがみ込んだ。


「……動けない……」


「「……はい??」」


「……もうだめなんだ。目がぐるぐる。あたし倒れそう」


「「……ええっ⁉︎」」


二人は大きな声を出す。


「大変でーすっ!」
「総長ーーっ!!」


バタバタと慌ててどこか走っていった。
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