SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「…………」
あたしは一人考える。
はっきり言って、今まであまり食べる事には興味がなかった。
もともと、ちゃんと食べるのは晩ごはんだけだったし、その晩ごはんさえ喉を通らない日もあった。
でも、食べないとこんなにフラフラするし、体に力が入らなくなるのか。
食べるって大事なんだな。
今更ながら、あたしはそれを実感した。
——カサ……
何かが擦れた音がする。
……あ、 そういえば……
服のポケットに手を入れる。
そこにあったのはタバコが一本。
これ、さっき公園でヒョロヒョロ男があたしにくれた。
『目覚めの一本はウマい……』
ぬぼ~っと、そんな事を言いながら。
「……ウマい……」
その言葉がぼーっとした頭によく響く。
——パク!
躊躇せず、あたしはタバコを食べてみた。
「……っ……」
瞬間あまりの苦さに息が止まる。
すると、
「おいっ! どうしたっ!」
背後で奏太の声がした。
「おい美空っ!」
ぐいっと体を引き寄せられ、奏太が顔をのぞき込む。
「……っ! おまっ……なに食ってるっ!」
動揺した声と共にアジトが一時騒然となった。
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「おまえっ! いくら腹が減っていたとはいえ、タバコを食う奴がどこにいるっ!」
「…………」
あれから、あたしは奏太に洗面所へと運ばれ、すぐにうがいをさせられた。
今は説教する奏太の前で、ご飯をおいしく食べている……