SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「…………」
薫はまだ目を覚まさない。
まるで何かから逃れるように固く瞳を閉じている。
……ふう。
ギプスをつけた不自由な左手。
片手でおぶって歩くのは大変だと、今更ながらあたしは気付く。
「……あっ、」
——バタン!
バランスを崩して転んでしまった。
その拍子に薫のまぶたがピクッと動く……
「……うっ、 ……んん、」
「……かおる?」
もうすっかり日は暮れていた。
街灯の下、薫はゆっくり目を開ける……
「————!!」
途端に薫の顔がこわばった。
「……ううっ! いやあぁぁ!」
手で顔を覆い、急にガタガタ震えだす。
「……薫? どうしたの?」
「 ! 」
あたしの声に、薫はこちらを確認した。
「……っ! 美空さっ……? どうし……あた、あたしっ……」
「……薫?」
「……ううっ、 うう……」
薫の震えは止まらない。
目からはボロボロといくつも涙がこぼれていた。
「……ど、うして……あたし、美空さ……」
「あ〜。 次男坊、あの金髪男ならやっつけた」
「……⁉︎」
「もう平気。 薫は全部、大丈夫だから」
「……うぅ……それ、は……」
薫があたしの体やギプスを見る。
「ああこれ? あの男。ぶん殴られて刺されたんだ」
「……ひっ!」
薫の顔が凍りついた。
「いやあああ……ぁぁぁ!!」
「……薫?」
「ごめんなさいっ……うあああ〜っ!!」
「大丈夫だよ、こんなの……」
「……うわあああ〜っ!!」
まるで悲鳴のような泣き声。
薫は今、悲しみの真っ只中に埋れていた……