SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし


「……湧人っ! 離れてっ! 一人にしてっ!」


「みくっ!」


「放っておいてっ! あたしに構わないでっ!」


「……みくっ、」


「お願い、もう……帰って……」


「……っ、」


「……早く、 行って……ううう!」


すると、


————バッ!


ふいに感じる背中の違和感……


……⁉︎


湧人があたしを抱きしめていた。


……ゆう、と……?



「……あのさあ、ほっとける訳ないから……」


囁き声が耳に届く……


「……ゆう……」


……?

すぐに異変に気が付いた。


……あ、れ……


あたしはおもわず息をのむ。

何故かそれまでの苦痛がなくなり、ピタリと反応が治まっている……


……なに、 これ……


訳が分からず、ゆら〜と視線を泳がせる。



「……質問。 一体何があったの? 満月が、なに?」


あたしが落ち着いたのが分かったのか、湧人が背中越しに聞いてきた。


「……あ〜。 あたし、満月が苦手で……」


「……うん」


「……感化のぼうちょう。マイナスとプラスがあって。引っ張られて。感情が……」


「……うん」


「……今日は特にだめで……けど、今、湧人がぎゅってしたら、治って……」


「……そう」


「……湧人、なんで、ユリみたいな……」


「……うん?」


「……あ、」


……そうか……


「子どもはかわいい、見てると癒される」


「……え?」


「ユリが言ってた。子どもは癒されるんだって。だから湧人……」


「……っ、なにそれ! 子ども扱いしないでくれる! だいたい、みくの方が中身子どもだからっ!」


……?


「湧人? 怒った?」


「……別に」


"サワサワサワ"


やさしい夜風にハンカチの木が揺れている。



「……強くなるから……」


風に紛れて声がした。


「……え?」


「オレ、強くなる。みくがケガをしないで済むように誰よりも強くなって、みくのこと守るから……」


「……ゆうと……」


不思議な気分に包まれる。

湧人を背中に感じながら、あたしは満月を見上げていた……
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