SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
————————————————
————————————————

——8月31日。

お昼過ぎ……


「……はあ〜、」


シャワーを終え、あたしはぐったり縁側に座り込む。


……もう。

シャワー浴びるのも一苦労だ。

左手が使えないだけで、まさかこんなに日常生活が大変になるなんて……

そこへ、さっと湧人がやって来た。


「みく? 髪かわかすよ?」

"ブオ〜"

あたしはされるがまま。

湧人はドライヤーであたしの髪を乾かした。



おとといの満月の日の夜。

ここへ帰って来てから、湧人はなにかとあたしの世話を焼く。

お風呂や着替えはお婆ちゃんの手を借りるけど、それ以外は全部手伝ってくれるのだ。


「ありがとう。 湧人、優しいね」

そう言うと、


「……別に。誰にでも優しい訳じゃないから」


湧人はちょっとツンとする。

今度はあたしの手の包帯を替え始めた。


「…………」


満月の夜の事は、いまだに謎のままだ。

心配した黒木とユリがあのあと電話してきて、あたしは不思議を言ったけど、よく分からなかったのか、二人は “ う〜ん? ” を繰り返した。


霊を跳ね返す湧人の体質に関係があるのか、やっぱり子どもの癒し効果なのか、そこはよく分からない。

でも、あたしはあまり深く考えない事にした。

平気だったって聞いて黒木もユリも安心してるし、それに……

湧人のおかげで、あたし、いろいろ助かってるし。



「みく? 明日、学校どうするの?」


湧人が顔をのぞき込む。


……?


「どうするって?」


「……だって……」


あたしの顔をじいっと見つめ、こらえるようなその表情……


「……あ〜、」


湧人はまだ目立つ、あたしの顔のアザを気にしていた。


「大丈夫。コンシーラー」


あたしは水色バックに手を伸ばす。

ケガや打撲の手当ての仕方、アザの消し方もトレーニングで教わっていた。


「……えっと……」


あたしはバックをゴソゴソあさる。

すると、見慣れないネコの人形が目に入った。


……なんだ、これ?
< 481 / 795 >

この作品をシェア

pagetop