SignⅠ〜天狗のしるしと世界とあたし
「……ごめん」
湧人がポツリ、あたしに言う。
「……?」
「バッグに入ってたあの黒いリス。みく、爆弾人形かもしれないって言ってたからさ。危険だし、悪いけど古井戸に沈めといたから。その代わりに……」
「ふうん」
「バッグ、勝手に開けてごめん」
「ううん。 これ、くれるの?」
「うん、プレゼント」
「ありがとう。ネコ、水色だね」
「みく、よく空見てるし。水色が好きなのかなって」
「うん。あたし水色が一番好き」
そう言うと、湧人は少し微笑んだ。
「……でも、バックにいろいろ入ってるんだね。小道具? それ、全部使うの?」
「ううん、ほとんど使わない。でも、黒木とユリ、心配して詰める」
「……ふうん」
「でもこれ、今度から髪の毛しようかな。銀の髪目立つし」
あたしは黒い髪の毛を取り出す。
「……ああ、ウイッグ?」
湧人がそれをあたしにつけた。
「……へえ、ずいぶん違った感じになるね」
「……そう?」
「うん、まるで別人……」
そこへ、
"シャアアア!"
坂道を黒い自転車が駆け上ってくる。
——キッ!
自転車は縁側の手前で停車した。
「……あ、」
やって来たのは、透。
「……⁉︎ ……は⁉︎」
透はギョッとした顔であたしを見てる。
湧人があたしのウイッグを外すと “ なんだ ” と大きく息を吐いた。
「……よお、」
気まずそうに近付いてくる……